“NX ONE RECOMMENDS”No.3

2022.02.15

リシャール・ミルの3つの柱となるコンセプト「最高の芸術的構造」、「最高の技術革新」、「伝統的機械式製造技術の継承」がある。NX ONEで取り扱った貴重な歴史的モデルたちを毎月ご紹介していく新連載です。3つのコンセプトに沿った時計作りについて時計ジャーナリスト目線でご紹介して頂きます。

第三回目も、時計専門誌『クロノス日本版』を中心に執筆中の時計ジャーナリストで、『ALL ABOUT RICHARD MILLE リシャール・ミルが凄すぎる理由62』(幻冬舎)共著もある鈴木裕之さんに、ご紹介頂きました。今回ご紹介するモデルは、シルヴェスター・スタローンを共同開発者に迎え、2018年に発表された「RM 25-01 トゥールビヨン アドベンチャー シルヴェスター・スタローン」です。

異形の外装に隠された、超高精度ケースメイキングの確かな感覚性能

リシャール・ミルにとってのラウンドケースは、それだけで特別な存在だ。通常の時計にラウンドケースが多いのは、と。リシャール・ミルのラウンドケースには、そうでなくてはならない理由があるのだ。
リシャール・ミルにとって初のラウンドケースは、2009年に発表された「RM 025 トゥールビヨン クロノグラフ ダイバー」だ。300mの高圧防水性に対応するためというより、ISO 6425の基準に合致する逆回転防止ベゼルを搭載することが求められたからだろう。独自の3重ケースは平均的なテンションを保つため、裏側12本、ベゼル側26本のトルクネジで固定され、長期的に安定した防水性能を確保している。また、チタン製のコラムホイールやレバーなどが採用された、手巻きのクロノグラフ トゥールビヨンは、ダイビングツールとしての操作性を優先して、プッシャーがケース左側に移されていた。

▲RM 025 トゥールビヨン クロノグラフ ダイバー 手巻き、ケース径50.70mm、チタン×18KRGケース、300m防水、ラバーストラップ

俳優で映画監督のシルヴェスター・スタローンを共同開発者に迎え、2018年に発表された「RM 25-01 トゥールビヨン アドベンチャー シルヴェスター・スタローン」は、RM 025の直接的な系譜に連なる。ただしこのモデルはISO準拠のダイバーズウォッチではなく、もっと特殊なケース構造が盛り込まれていた。ベゼル部分に交換可能なコンパススケールを組み込んだ、いわゆるアウトドアウォッチに仕立て直されていた。

RM 25-01には、交換可能な2種類のベゼルが用意されている。ひとつは東西南北の基本方位と360°のスケールを刻んだ両方向回転ベゼル。RM 25-01は24時間表示なので、時針を太陽に向けた際に、ダイアルの12時と時針の中間の角度が南を示す。いわゆる簡易的な太陽コンパスだ。しかしRM 25-01では、もっと本格的なコンパスをダイアル上に装備することも可能なのだ。2枚のサファイアガラスに挟まれた方位磁石は、確実な作動を担保するためルビー受けとされており、破損を防ぐカーボンTPT®製のトップカバーも備えられる。通常の回転ベゼル装着時にも、この方位磁石はカーボンTPT®製のプレートに換装可能で、マップに重ねて使うベースプレートコンパスに変身する。時計としての機能とコンパスの携帯性を考えれば、この使い方が最も理に適っているだろう。

この交換式ベゼルで特筆すべきは、加工精度の素晴らしさだ。ベゼルを回転させながら数枚の爪で固定するバヨネットマウントは、カメラの交換レンズと同じ方式だが、その感触はちょっと体感したことがないほど滑らかだ。リシャール・ミルではここにDLC処理が施されたチタン材を用いるが、敢えて研磨を加えていないのは、本来の加工精度によほどの自身があるのだろう。ムーブメントパーツと同じ精度基準で作られるリシャール・ミルの外装は、磨き仕上げだけで精度に影響を与えてしまうのだ。見える部分なら審美性を優先しただろうが、この機能パーツとしての割り切りが、心地よい操作感を生んでいるのだから、クォリティコントロールの確かさがうかがえる。

2時位置に設けられたグレード5チタン製のピルケース(密封容器。本来は浄水用の錠剤を封入しておく)や、4時位置の水準儀がアウトドアウォッチとしての異形さを際立たせているが、この時計の本質的な魅力は、異常なほどの超高精度(もっともリシャール・ミルではこれが通常なのだが…)で構築されたラウンドケースと、回転部分の滑らかさにある。

スタローン扮するベトナム帰還兵が密林で使うようなイメージの時計が、これほどの操作感を持つとは誰が想像できるだろう。RM 25-01は、触って動かして初めて分かる、感覚に訴えてくる時計なのだ。

文・鈴木裕之
撮影・鈴木泰之 / リシャール・ミル