“NX ONE RECOMMENDS”No.4

2022.03.09

リシャール・ミルの3つの柱となるコンセプト「最高の芸術的構造」、「最高の技術革新」、「伝統的機械式製造技術の継承」がある。NX ONEで取り扱った貴重な歴史的モデルたちを毎月ご紹介していく連載です。3つのコンセプトに沿った時計作りについて時計ジャーナリスト目線でご紹介して頂きます。

時計専門誌『クロノス日本版』を中心に執筆中の時計ジャーナリストで、『ALL ABOUT RICHARD MILLE リシャール・ミルが凄すぎる理由62』(幻冬舎)共著もある鈴木裕之さんに、今回も2016年に発表された日本限定モデル「RM 07-01 ジャパン・ピンク」をご紹介いただきました。


設計基準をスモールサイズに置くという英断が生んだ技術的アドバンテージ

人間が携帯する時計の中で、最も優れた性能を期待できるのが懐中時計だ。その理由は単純で、サイズが大きいからである。20世紀の初頭に腕時計が登場してから半世紀以上にわたって開発の主眼とされてきたのは、小型で高精度なムーブメントを実現することだった。その結果として、腕時計用として認められるムーブメントの直径は最大30mm、平均的には直径25.6mm前後が標準となっていった。2000年以降に作られた新型ムーブメントに超高性能機が多い理由は、オーバーサイズの腕時計が流行した結果として、大径のムーブメントを新規開発することが通例となってきたからだ。

しかしこれを逆の視点から見ると、小径のムーブメントを作ることは,工作技術の発達した現代でも難しいと言うことになる。一般に“女持ち”と呼ばれるレディス向けのムーブメントでは、やはり高精度を担保することが極めて難しいのだ。2012年にリシャール・ミルが初めて自社製ムーブメント「Cal.CRMA1」を発表したとき、多くの関係者が驚きを隠せなかった。「RM 037」に初搭載されたその自動巻きムーブメントのサイズは、縦28.0×横22.9mm、厚さ5.79mm。時計自体はユニセックスだったが、搭載されるムーブメントは、なぜか“女持ち”に近いようなサイズ感だったからだ。「どうしてスモールサイズから新規開発に踏み切ったのか?」という素朴な疑問は、マーケティング的な理由よりも、技術的な困難さのほうが先に立っていた。

▲2012年発表「RM  037 オートマティック」

リシャール・ミルが2005年から製造してきた本格的なレディスピース「RM 007」に替わる後継機、「RM 07-01」が発表されたのは2014年のこと。RM 037と比較して、ケースサイズはふた回りほど小さくなっているが(ケース幅で6.54mm縮小)、ムーブメントはCal.CRMA1とほぼ同寸の新型機「Cal.CRMA2」が搭載されていた。Cal.CRMA1とCal.CRMA2の違いは、ビッグデイトカレンダーやファンクションセレクターの有無と、それに伴って針回しがリュウズ引きに変更された程度。両機は基本設計を完全に共有するバイプロダクト機であり、後年にはCRMA2の輪列をベースにして、同社初の自社製自動巻きトゥールビヨンの「Cal.CRMT1」にまで発展を遂げている。最初に高性能で小型のベーシックムーブメントを開発/熟成させておき、それをベースに機構を発展させてゆくというリシャール・ミルの技術的挑戦は、大きく身を結んだことになる。巻き上げ用のローターも必然的に小径となるため、お馴染みの慣性可変機構がもたらす恩恵も、より大きく生きてくる。

▲2014年に発表された「RM 07-01 レディス オートマティック」

2014年の発表以来、「RM 07-01」は多彩なデザインアプローチで女性の腕元を彩ってきた。また数多くのリミテッドエディションが生み出されたことでも知られる。今回掲載する「RM 07-01 ジャパン・ピンク」は、2016年に発表された日本限定モデル。18KWG製のミドルケースを、純白のATZ製ホワイトセラミックスベゼル(ジルコニアセラミックスの一種、アルミナ強化ジルコニア)で挟み、スケルトナイズでムーブメントの一部を覗かせるセンターダイアル部分には、マザー・オブ・パールが象嵌されている。

インデックスを刻んだインナーベゼルとリュウズ部分は、日本古来の伝統色である、鴇色や紅梅色を思わせるマットピンクに。一般的なイメージでは桜だろうか?どちらにせよ、こうした淡い色調を均一に発色させるのは極めて難しく、リシャール・ミルが鍛え上げてきた、外装技術の一端を垣間見ることができる。40本の日本限定で発売されたこのモデルは当時即完売となったとのこと。

▲2016年発表「RM 07-01 ジャパン・ピンク」

なおこのモデルは、3月10日(木)から入札スタートとなる「NX ONE チャリティオークション2022」にも正規認定中古時計の1本が出品される予定で、スターティングプライスは3000万円(税込)〜となっている。

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文・鈴木裕之
撮影・鈴木泰之/リシャール・ミル