“NX ONE RECOMMENDS”No.2

2022.01.14

リシャール・ミルの3つの柱となるコンセプト「最高の芸術的構造」、「最高の技術革新」、「伝統的機械式製造技術の継承」がある。NX ONEで取り扱った貴重な歴史的モデルたちを毎月ご紹介していく新連載です。3つのコンセプトに沿った時計作りについて時計ジャーナリスト目線でご紹介して頂きます。

第二回目も、時計専門誌『クロノス日本版』を中心に執筆中の時計ジャーナリストで、『ALL ABOUT RICHARD MILLE リシャール・ミルが凄すぎる理由62』(幻冬舎)共著もある鈴木裕之さんに、ご紹介頂きました。今回ご紹介するモデルは、リシャール・ミル ファミリーの重鎮でもあるジャン・トッドとのコレボレーションもモデル「RM 11-03 ジャン・トッド」です。

RM 11-03  ジャン・トッド
リシャール・ミルの躍進を支えた2代目フライバック・クロノグラフ

https://www.nxone.jp/products/soldout/rm11-03-jean-todt/

前回採り上げたRM 004が、リシャール・ミル製クロノグラフのF1だとしたら、2007年に初登場したRM 011シリーズは、より身近なグランツーリズモに相当するシャール・ミルとして、新たに企画されたのがRM 011シリーズだ。RM 11-03はその直系の後継機にあたり、ムーブメントデザインや外装がブラッシュアップされているが、機能的にはほぼ同一と考えていい。

▲2007年発表「RM 011 Felipe Massa Flyback Chronograph」

RM 011シリーズが一時代を築くことに成功した要因は、リシャール・ミルが得意としてきた巧みなコンセプトワークによる。初代RM 011が搭載するCal.RMAC1は、ヴォーシェ・マニュファクチュール・フルリエ製の自動巻きエボーシュに、デュボア・デプラと共同開発したエクスクルーシブモジュールを載せたもの。特徴的なビッグデイト表示には年次カレンダーを盛り込み、センターに配置された秒積算針にはフライバック機能を追加。さらに6時位置には60分と12時間の同軸積算計が備えられている。いわゆる“自社製クロノグラフ”の開発ラッシュが巻き起こっていた2007年当時、同軸積算計は完全にメカニカルトレンドのひとつとなっており、このあたりにもリシャール・ミルの先見性が感じられる。ちなみに、この年に発表された新型クロノグラフと新型モジュールは合わせて13種あるのだが、同軸積算計はそのうちの6機種に採用されていた。

リシャール・ミルのコンセプトワークが非凡だったのは、カレンダーとクロノグラフの機能をモジュールに集約させたことだろう。現在でも同社ホームページでデータを閲覧することが可能だが、Cal.RMAC1が備えるテンワの慣性モーメントは4.8㎎・しかない。設計の初期段階からベースエボーシュよりも強い主ゼンマイを搭載したと聞くが、その恩恵はトルクの安定化に振り向けられており、慣性モーメント自体は決して大きくないのだ。そのため、トルクの弱いクォーツでも動くと定評のあったDD2000系のモジュールをベースに、独自の付加機構を盛り込んでいる。当時こうしたエクスクルーシブモジュールを使えたのは、ごく一部のブランドに限られていたことも付記しておこう。

ここに掲載するモデルは、2017年に発表された「RM 11-03 ジャン・トッド」。リシャール・ミル・ファミリーの一員である前に、ミル氏の友人であったジャン・トッドのレースキャリアが50周年を迎えたことを記念した150本の限定モデルだ。鮮烈な印象を与えるブルーとホワイトのクォーツTPT®は、厚さ約45ミクロンのシリカ材を積層させた後に、リシャール・ミル独自のブルー樹脂を浸透させたもの。もちろんブルーは、ジャン・トッドが好んだ色だ。

2007年初出のRM 011は、2016年に大幅なモデルチェンジを経てRM 11-03となり、2021年には生産終了との事だ。数多くのバリエーションを生み出してきたように感じるRM 11-03だが、実際の製造期間はわずか5年。各モデルの限定数を総合してみても、総生産数はそれほど多くない。他のリシャール・ミルに比べれば多いとはいえ、やはり未来へと受け継ぐべきヘリテージピースであることに変わりはないだろう。なお、RM 11-03に代わるポジションのシリーズは、スプリットセコンドクロノグラフを搭載しているRM65-01や、ライフスタイルクロノグラフと銘打った2020年発表の完全自社製クロノグラフ(Cal.CRMC1)を搭載するRM 72-01へと受け継がれている。

文・鈴木裕之
撮影・鈴木泰之/リシャール・ミル