“NX ONE RECOMMENDS”No.5

2022.05.16

リシャール・ミルの3つの柱となるコンセプト「最高の芸術的構造」、「最高の技術革新」、「伝統的機械式製造技術の継承」をもとに誕生したモデルを、時計ジャーナリスト目線でご紹介して頂きます。
NX ONEで取り扱った貴重な歴史的なモデルたちを時計専門誌『クロノス日本版』を中心に執筆中の時計ジャーナリストで、『ALL ABOUT RICHARD MILLE リシャール・ミルが凄すぎる理由62』(幻冬舎)共著もある鈴木裕之さんに、ご紹介頂きました。今回ご紹介するモデルは、世界24都市の時刻を表示するワールドタイマー搭載モデル「RM 63-02 オートマティック ワールドタイマー」です。

自社製オートマティックで実現した、直感操作のコティエ式ワールドタイマー

リシャール・ミルが製造する自社製オートマティックには、7種のキャリバーが存在する。まず、すべてのベースとなるトノー型の「Cal.CRMA1」。ビッグデイトカレンダーやファンクションセレクターをオミットすることで、拡張性を高めた「Cal.CRMA2」。そしてラウンド型の地板形状を持つ「Cal.CRMA3」と、今回紹介するRM63-02に搭載する「Cal.CRMA4」である。以前にこのコラムでも「リシャール・ミルの丸型は特別だ」と書いたが、「RM 63」系のシリーズは、ちょっと特別なのだ。

RM 63系のナンバーを初めて使ったモデルは、2015年に発表された「RM 63-01 ディジーハンズ」。同社初となった自社製の丸型自動巻きを搭載したモデルは、リュウズ操作で“時間の概念を破壊する”ユニークな機構を備えたもの。時針が時計回りに高速回転、さらにダイアルが反時計回りに逆転することで、見る者に目眩(=ディジー)を起こさせるというものだった。そのムーブメントに与えられたキャリバーがCRMA3なのだが、2年後となる2016年には、新たにCRMA4のキャリバーを持つ「RM 63-02 オートマティック ワールドタイマー」が登場。しかし驚くべきことに、基本輪列以外のムーブメント構造はまったく一新されていたのだ。

▲RM 63-01 ディジーハンズ

▲RM 63-02 オートマティック ワールドタイマー

RM 63-02のルーツとなるのは、2013年に登場した「RM 58-01 トゥールビヨン ワールドタイマー ジャン・トッド」だろう。AP ルノー・エ・パピ社(現オーデマ ピゲ ル・ロックル)と共同開発されたワールドタイム機構を、自社製ムーブメントのCRMA3に融合させたモデルで、研究開発を主導したサルヴァドール・アルボナは、RM 58-01で培ったノウハウから踏襲した“妹”だと言う。

▲RM 58-01 トゥールビヨン ワールドタイマー ジャン・トッド

RM 63-02が持つ最大の特徴は、ベゼルで直接操作できるワールドタイマー機構だ。世界24都市が刻まれたインナーベゼルの表示と、ローカルタイムを指し示す時針を連動させる機構は、ワールドタイマーの始祖であるルイ・コティエと同じ方式。

しかし、プッシャー操作に頼ることなく、ベゼルを直接回転させることで、任意の時間に設定できる点がリシャール・ミル流である。アウターベゼルを掴んで反時計回りに回転させると、都市名を刻んだインナーベゼルも連動して動く。さらにベゼル内に仕込まれた中間車がアワーホイールを回すことで、時針の位置まで連動するのだ。アウターベゼル、インナーベゼル、アワーホイールに取り付けられた時針の3つは、本来まったく異なる構成を持つのだが、それらを連動させることで、感覚的な操作を実現させている。それが当たり前かのような、自然な動きなのである。

ちょっと興味深いのは、回転ベゼルの外周に取り付けられたグリップ部分だ。実はこの部分だけ、インナーベゼルやアワーホイールとの連動機構とは無関係に、自由に動かせるのだ。ベゼルに設けられた凹凸のグリップ部分と、実際の24都市表示には角度的なズレがあるから、場合によっては凹凸の位置が、時計として正しい向きにこない場合もある。気にしないならそれでも良いのだが、もしも気になりだしたら、このズレは永久に埋まらない。きっと開発者にとっては、この僅かなズレが気持ち悪かったのだろう。まったく機能に関係のない部分だが、リシャール・ミルの完璧主義が垣間見えて実に面白い。

そして、もともと巻き上げ効率の高さには定評のあるCRMA1をベースとして機能を追加したCRMA4は、容量不足の心配も皆無だろう。CRMA1系列の両方向自動巻きは、歴代リシャール・ミルの中でも、最も信頼性の高い機構のひとつだ。

文・鈴木裕之
撮影・鈴木泰之/リシャール・ミル